カイロジャーナル第81号掲載記事

カイロジャーナル第81号(2014年6月22日発行)より

井上裕之DCの治療院を訪ねて㊦

 (前号から続く)11月からいよいよ井上裕之DCによるアトラス・オーソゴニスト育成講座が始まる。前号インタビューでは、アトラス・オーソゴナル・カイロプラクティック(AO)との出会い空始まるお話を伺ってきた。今回は臨床の流れ、今後のビジョンなどもお聞きした。


AO創始者のロイ・スウェットDC。
井上裕之DCが師事し、
日本にAOを伝えるように井上DCを励ましたことが、
今回の勉強会開催につながった。

ロイの強い後押し「日本でAO普及させよ」

――パーマー大学卒業のときにスウェットDCに進路を相談したそうですね。
 卒業するときに、日本に帰る予定なのですが、まだ自信を持って帰国出来ない、ということをロイに相談しました。そうしたら、ロイのオフィスがあるアトランタにおいで、と言ってくれました。ロイのところに行く前に、それまでのことを全部復習しておこうと思い、上部頚椎のドクターのところに1カ月間住み込みもしました。その後ロイのところに行くと、どのくらい上部頚椎について理解しているかということが彼にはすぐ分かったようで、すごく親身になってくれ、家に呼んでくれて食事もごちそうになりました。
 彼のところには多くのカイロプラクターが勉強に来るのですが、特別に親身に接してもらったと感じています。最後はロイの方から「おまえは日本に帰ってこのテクニックを広げろ、なんでもサポートはするから、このAOを伝えるために帰れ」というふうに言われました。もうそれから15年も経ってしまいましたけど。
――なぜ上部頸椎の中でもAOを選択することになったのでしょう。
 ロイに惚れ込んだんでしょうね。出会いでしょう。日本で本物のAOを伝える教育には、テーブルをどこから手に入れるかという問題がありました。日本で製作するというのも、簡単に了解をとれたわけではありません。いろいろありましたけど、ロイと話し合って一つずつ了解を取っていきました。
――AOのテクニック自体は、変化していくものですか?
 分析法は改善されていくでしょう。だから一年に一度はアトランタに行って勉強する必要もあります。そのときに自分のデータも持っていってそれで議論もします。
 しかし基本の撮り方は同じです。骨の形状などによって角度は違いますが、3方向からアトラスをと撮って、それで割り出した角度をもって、調整します。AOはアトラスを使って、頭蓋骨を背骨の上に乗せるテクニックだと言えます。

治療の頻度

――AOでは、治療の間隔はどのくらい空けますか?
 初期は週2回ぐらい、詰めて診ます。よい状態を保持すると、コアマッスルの緊張がなくなって柔軟性が高まります。その状態が持続できると、自分で「アトラスが入った状態」なのかどうかわかるようになります。だから、違和感を感じると今度は患者さんが連絡して来るようになります。
 しかし良い状態がわかるためには、数週間から1カ月その状態を保たなければならないので、最初はこちらから指定した間隔で来院してもらいます。
――状態を理解している患者さんはどのぐらいの頻度で来ますか?
 何年ぶりということもあります。ジェットコースターに乗ってズレたから来た、なんていうこともありますが、良好状態維持のためには定期的なメンテナンスをお勧めしています。
――患者さんへの説明で気を付けている点は何ですか?
 患者さんからの紹介の場合はある程度わかってやってくるのですが、ホームページを見ただけで来る方もいるので、AOについての十分な説明を心がけています。その後レントゲンを撮りに行ってもらいます。だから急性の場合などは治療が追いつかなくて困りますが、それでもそうしないと続かないし、その方にとっても納得できないものになってしまいます。アメリカのようにレントゲン装置があってすぐに撮って治療に入れればいいですが、そうはいかないのが日本の現状です。

子供は数回で好転

――高齢者にも同じ治療をするのですか?
 同じです。例えば、圧迫骨折の方でも、アトラスを調整すると、その部位への負担が少なくなるので楽になります。動けなかった人が動けるようになることもあります。
――子供の治療はどうでしょうか?
 子供も同じです。子供はまだ筋肉の癖が少ないので、数回で良い状態になることが多いです。自分が調整してもらったのは、遅い方ではないですが、20歳を過ぎてからです。もっと若かったらよかったなと思います。
 小学校入学の検査で側弯症と言われ、AO治療をして2年生の検査では治っていたというケースもありました。

今後の展望

――勉強会以外には、どんな形でAOを広めていきたいですか。
 アメリカなど海外で活躍する臨床経験豊かなDCに来日してもらって交流する機会もつくりたいですね。またアトランタにみんなで一緒に行って、上部頸椎に特化した解剖セミナーに参加するのもいいと思います。1回経験するだけでも収穫は大きいと思います。
 セミナースペースはせいぜい10人ぐらいしか受け入れられないのですが、それでも信頼関係のあるネットワークがつくれれば、それが大事だと思っています。DC、ノンDC関係なくやっていきたいと思っています。パーマーでAOを勉強した日本人DCも皆、AOジャパンができたら手伝いたいと言ってくれています
――レントゲン撮影のネットワークも広めたいそうですね。
 協力的な医師や歯科医師、放射線技師を対象にAOのレントゲンの撮り方の勉強会もやりたいと思っています。全国で協力医療機関が増えれば、それだけ地元でAOを受けられる患者さんも増えるので。理想は日本のどこにいてもしっかりしたAOが受けられることです。
――ビジョンが広がっていきますね。今後のAOの広がりに期待しています。ありがとうございました。

 

今井治療室(東京都江戸川区)にて井上裕之氏に学びながらAO治療を習得し、現在は愛知県一宮市で開業する北川勇介氏にご寄稿いただいた。

北川カイロプラクティック院長
北川 勇介

AO中心のカイロ実践

 私にとって、AOは治療を組み立てていく上で外せないものになっています。レントゲンの撮れない小さなお子さんや妊婦さんの場合には、無理にAOは使いませんが、基本的には、AOによるアプローチからスタートしています。
 最初にAOを知ったのは、シオカワスクールでの学生時代に、アルバイトをさせてもらっていた今井医院・今井治療室でした。初めの印象は、こんなに軽い刺激で、人の身体が本当に変化するのだろうかという感じでした。実際、シオカワスクールの学生時代は、ガンステッドテクニックが大好きでしたから……。

軽い刺激で的確な変化

 そう思いながらも、AOで変化していく患者さんを見続けることで、ソフトなアプローチで的確に変化をもたらすことができるAOに魅力を感じ、自分もこれでやっていきたいと思うようになり、卒業後もそのまま今井医院・今井治療室で勉強させていただくことにしました。
 AOを習得していく過程で苦労したのは、まずはレントゲン分析でした。なかなかレントゲンを読むことができず、とにかく毎日できるだけ多くのレントゲン写真を見ることを心がけました。また、器具による調整のため、最初は正直なところ簡単にできるだろうぐらいに思っていましたが、実際は非常に難しく、当初は手で調整したくなることもあったくらいです。

治療には不可欠

 今井医院・今井治療室に8年ほどに勤務した後、現在は地元の愛知県一宮市でAOを中心としたカイロプラクティックを実践しています。AOはしっかりとしたレントゲン写真が必要になるため、地方では実践しにくいと思われがちですが、探せば理解してくれる医師も必ず見つかると思います。
 患者さんにしっかりとAOを理解してもらうために、初回は説明に30分ほど時間をかけ、しっかりと理解してもらった上で、治療を始めるようにしています。
 この度、新たにAO勉強会が始まるとお聞きし、この治療法が広がっていくことを大いに期待しています。

2018-06-15 | Posted in 掲載記事No Comments » 

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