カイロジャーナル第80号掲載記事

カイロジャーナル第80号(2014年6月22日発行)より

井上裕之DCの治療院を訪ねて㊤

 アトラス・オーソゴナル・カイロプラクティック(AO)の創始者のロイ・スウェットDCから学び、アトラス・オーソゴニスト(BCAO)として都内で開業している井上裕之DCが、今秋からAO勉強会を開催する。井上DCは2年以上前から、テキストの翻訳や日本でAOテーブルが容易に入手できる段取りなど、一歩ずつ勉強会準備を進めていた。テキストとなる『アトラスオーソゴナル・カイロプラクティック』(ロイ・スウェット/マシュー・スウェット共著、井上裕之翻訳、科学新聞社刊)は2011年の末に発行された。テーブルは、レイアンドカンパニー社がスウェットDCと井上DCのディレクションのもと、米国製品以上の品質を目指し、商品化の最終段階に入っている。井上DC自身の自宅も建て替えを終え、治療室とセミナールームを備えた新居が整ったところだ。今後は、三鷹の治療院と八王子の自宅の両方で治療を行い、勉強会は自宅で開催する予定だという。勉強会のビジョンとAOの特徴をお伺いするために、5月末に三鷹の治療院「上部頚椎研究室」を訪ねた。


今秋から開催するAO勉強会の準備に余念がない井上裕之DC。さまざまに思い描く構想を自由に語ってくれた。

アトラス・オーソゴナル・カイロプラクティック勉強会
今秋開催へ準備着々

――一言で言うと、どのような勉強会を目指していますか?
 ロイがやってきたAOをそのまま日本で広めたいと思っています。そのためにテキストも翻訳しました。レントゲンの撮影など、アメリカのカイロプラクターにできて日本では出来ないこともありますが、正規のAO治療を普及したいと考えています。
 自分自身は、渡米するときから良いものを日本に伝えたいと思っていました。当時は何が良いものかもわからなかったんですけど、今はそれがわかって教えることができるので。この活動自体が、ロイや今までお世話になった人々への恩返しになると思っています。

テーブルも製作

――テーブルまでつくるというこだわりの理由は何でしょう?
 日本でいくら教育をやっても、テーブルがなければ治療自体も上手く伝わりません。カイロ・テーブルは医療機なので、日本では基本的に医師でなければ輸入して買うことができません。裏口から買うのではなく、橋の真ん中を堂々と歩いて、AOを広めたいと思ったので日本での製作を進めました。日本と米国では部屋の大きさも違うし、日本で広めるには、違う規格のものが必要だとも思います。
――井上先生がBCAOになったきっかけは何だったのですか?
 パーマー大学に入り、せっかく入ったのだからといろいろなテクニックを受けていました。スポーツをやっていたので、ガンステッドを学ぼうかと最初は思っていたし、上部頸椎は日本ではできないと思っていました。
 ところが1学期にインターンに勧められてAOを受けたら、4歳のときに交通事故に遭ってから持っていた頭痛と、膜が張ったような感じが抜けたんです。調整後レッグチェックする間に、自分の体がテーブルに沈んでいくような感覚を今でも覚えています。「すごいな、やばいテクニックに会っちゃったな」という感じです。
 5学期からテクニックの選択科目が取れるので、グロスティック、ヌーカ、アッパーサービカルと、取れる上部頸椎の科目は全部取りました。でもその結果やっぱり自分にとってはAOでした。卒業後ロイのところで学び、日本にAOを伝えるようにと励まされました。

上部頚椎の理解

――ご自身はAO単独で治療を組み立てているのですか?
 例えば手首、足首の怪我の場合、必要であればその部位を診ますが、基本はAOで治療しています。バレエで足首を壊した人でも、先に頚の治療をするということです。アトラスだけで症状はよくなっていきますが、それでも必要ならば別の部位も診ていきます。
――BCAOを取った人は、AO中心の治療をする方がほとんどですか? AOを学んで、ちょっとそれを取り入れるという使い方もできるのでしょうか?
 SOTやアクチベーターにAOを組み入れた治療をしている人がアメリカでは結構いますし、セミナーにもいろいろなカイロプラクターが来ます。ロイのすばらしいところは、上部頸椎だけとは言わないところです。
 AOの基のテクニックはグロスティックです。ロイは、グロスティックDCから直接教わり、インストラクターとして教えていたのです。しかし教えてもできない人もいてテクニックに差があり過ぎるし、治療で身体を壊す人もいるので、多くの人に普及できるテクニックの開発を目指し、装置を使った方法ができたのです。
 AOとは何かといったら、それは上部頸椎の理解です。バイオメカニクスを知ることが大事で、AOを学ぶことでAOでないアプローチも全然変わると思います。
――AOでは研究の推進に力を入れていますか?
 スウェット研究基金があり、そこで研究、そして発表の機会があります。
 画期的なこととしては、コロラド大学のドクター・スーがAOの研究から、サブラクセーションが存在することを結論づけた発表があります。なぜ立証できるかというと、治療前後のレントゲン写真、レッグチェック、ニューロスコープでの違いを示し、調整後の変化を示したからです。これをもってサブラクセーションが存在しないとは言えないと結論づけ、医学誌に発表しました。カイロ大学での研究としては初めてのことだと言えると思います。
 今は、CTやMRIを使った分析の研究も進められています。

分析方法 身につければ一生もの

――技術としてはどのぐらいの期間で身に付けられるものでしょうか?
 アメリカのAOの教育システムは、ベーシックのコースは8~10回のセミナーで修了します。パーマー大学の場合はその後試験に合格すれば、学生クリニックで使えます。現実には、1クール受けただけではムリで、繰り返しセミナーを受けて自分のものにしていく必要があります。自分としてはコンスタントに勉強会を続けていって、繰り返し受講してもらい、自分のものにしていってほしいと思います。1クールでは到底身に付かないものですから。しかしAOの分析方法さえ身につけてしまえば一生ものです。

基礎を学んだ人対象

――どの程度カイロの勉強をしている人が受講対象者になりますか?
 カイロの基礎を学んだ人が対象です。パーマー大でテクニックの選択科目が受けられるのは、全10学期間あるうちの5学期からです。ある程度カイロの基礎を知らないとわからないと思うので、2年間のカイロ教育を受けていることが一つの目安ではないかと思っています。あとは個別に面談して決めたいと思っています。
――AOはどういうカイロプラクターを目指す人に向いていると思いますか?
 AOやグロスティックは、レントゲン分析という裏付けのある治療です、そういった科学的実績を持って治療をしたい、という人に向いているのではないかと思います。
 カイロの三原則である、サイエンス、アート、フィロソフィーは、そのすべてが広がることで器が広がります。AOでは、サイエンスはレントゲンで、レントゲン分析を基に治療し、治療前後に撮ったレントゲンをさらに分析していきます。
 もっとも日本では、治療後のレントゲンを撮るのは難しいので、私はほとんど撮りません。その代わりにレッグチェックやスキャニング、患者の反応をみて判断しています。
(次号に続く)

2018-06-14 | Posted in 掲載記事No Comments » 

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